イオン交換体
細胞内のpHを調節している輸送蛋白質は、 Na+/ H+交換体と呼ばれている。細胞の代謝活動によって常に酸が(プロトンが)生産されるため、H+を排出しなければならない。既述のように、どちらのイオンも普通は内向き輸送の電気化学ポテンシャル勾配をもっている。この交換体はNa+イオンの電気化学ポテンシャル勾配に沿った細胞内への侵入による自由エネルギーによって H+イオンを排出する。したがって、 Na+(ナトリウム)ポンプは間接的に細胞内のpH調節を行っていることにもなる。このような交換輸送を対向輸送(アンチポート)ともいう。細胞内pHが酸性側に傾くとこの交換体の活性は促進される。
上記のコラムの値を用いれば、この交換輸送に伴う自由エネルギー変化は-3.2+(+1.2)=-2.0kcal/molとなる。細胞内のプロトン濃度が上がればあがるほど、プロトンの内向き輸送の駆動力は低下するから熱力学的に十分可能な過程である。だが、細胞外のプロトン濃度が高まると、内向き輸送の駆動力が上がってしまうから、この交換体が停止する可能性もある。例えば、細胞外pHを5.5とし、その他の状況を同一とすればプロトンのΔμ=―3.9kcal/mol となるから、プロトンを排出することはできず、細胞内pHが6.6にまで低下することになるだろう。
Cl-/HCO3-交換体もpH調節に関与しているといわれ、細胞内pHがアルカリ側に傾くことによって活性化される。塩素イオンの吸収と引き替えに炭酸水素イオンを排出することによって、細胞内pHを酸性側に引き戻す。Na+/H+交換体が酸性化によって活性化されて細胞の酸性化(pH低下)を防ぐのに対し、Cl-/HCO3-交換体はアルカリ化によって活性化されて細胞のアルカリ化を防ぐ。この二つの交換体の相補的作用によって、細胞のpHは7.2前後に保持されていると思われる。なお、赤血球膜のCl-/HCO3-交換体(赤血球当たり100万分子ある)は、組織中で蓄積したHCO3-を肺通過の間に排出する。