イオンポンプ
イオンの電気化学ポテンシャル勾配に逆らう能動輸送に関与する蛋白質をイオンポンプという。この能動輸送を行うための駆動力(自由エネルギー)としてATPの加水分解を利用するATPアーゼ輸送体と、電子伝達を利用するものの二つが区別される。
①Na+(ナトリウム)ポンプ(別名、Na+/K+-ATPアーゼ)
Na+イオンをくみ出すことによって細胞の浸透圧を低く保つ(Fig.05-15_2)。動物細胞が吸水による細胞破裂を免れるのはこのためである(Fig.05-16)。もう一つの機能は、 Na+の内向きの浸透力を、糖やアミノ酸の吸収に利用することである(Fig.05-15_1)。動物によって消費されるATPの大部分、約70%程がナトリウムポンプの駆動のために消費されているという(ヴォート)。
ナトリウムポンプは、ATP一分子の加水分解によって三個のナトリイウムイオンを排出し二個のカリウムイオンを吸収する{(Fig.05-14_1) & (Fig.05-14_2)}。このように異なったイオン種が同一の輸送蛋白質によって逆向きに輸送される場合、対向輸送(アンチポート)と呼ばれる。既述のように、Na+イオンは内向きの、K+イオンは外向きの電気化学ポテンシャル勾配(駆動力)をもつため、それと逆行する輸送を行うナトリウムポンプが作用するための自由エネルギーを、ATPの加水分解が提供することになる。また、ATP一分子の加水分解によってナトリウムポンプはプラスの電荷を一個放出することになるから、電位発生的な輸送でもある。しかし、既述のように、静止膜電位の大半はK+チャンネルの高い透過性に基づく受動的な、K+平衡電位に由来し、ナトリウムポンプの寄与は約10%程と見積もられている。
②Ca2+(カルシウム)ポンプ
Ca2+ イオンをくみ出すことによって細胞内の燐酸が沈殿することを防ぐとともに、環境シグナルに応答できる状態を維持する( 環境シグナルの多くは細胞内においてCa2+ イオンの上昇に変換される)。このように、Na+イオンやCa2+ イオンのポンプは細胞毒性を防ぐ機能をもつ。おそらく、この機能が最も古い歴史をもつものと予想される。これらのイオンを低く保つ必然性があったために、その微弱な変化もまた大きなシグナルとしての機能をもちえたのであろう。こうして、チャンネルの一過的な開孔による一過的な濃度上昇が、細胞内のメッセンジャーとなったのである。ただし、 Na+イオンをシグナルとすることは専ら神経興奮にのみ利用され、一般的には植物を含めCa2+ イオンが細胞内の信号になっている。
③H+(プロトン)ポンプ
もう一つの重要なイオンポンプはH+(プロトン)ポンプである。呼吸鎖や光化学系におけるH+(プロトン)ポンプの駆動力は、電子伝達のエネルギーである。これにより、チラコイド膜やミトコンドリア内膜(クリステ膜)を介してH+(プロトン)の大きな電気化学ポテンシャル勾配が形成される。もう一つのH+(プロトン)ポンプはNa+(ナトリウム)ポンプやCa2+(カルシウム)ポンプと相同性の高いポンプで、ATPを加水分解したり合成したりする活性をもっている。このポンプは生理的状態においては電子伝達によって形成されたH+(プロトン)の大きな電気化学ポテンシャル勾配を利用してATPを合成する作用がある。