媒介輸送と細胞内栄養環境
細胞内部のイオン環境を整えるとともに、細胞は内部の栄養状態を良好に保つ。グルコースやラクトースなどの糖とアミノ酸などは、媒介輸送によって吸収される。単一輸送(ユニポート)、共輸送(シンポート)、代謝的輸送の三つの型式がある。
グルコースの受動輸送細菌や、赤血球、筋肉細胞、脂肪細胞などの形質膜を貫通するグルコース輸送蛋白質で、グルコースのみを輸送する。これを単一輸送(ユニポート)という。グルコース輸送そのものは受動的な過程であり、濃度勾配(電気化学ポテンシャル勾配)に沿ってしか生じない。
膵臓ランゲルハンス島β細胞のグルコース吸収とインシュリン分泌の相関図 adapted from 糖尿病とミトコンドリア遺伝子異常 (大塚製薬(株))
グルコース担体の出没とインシュリン
筋肉細胞や脂肪細胞によるグルコース輸送はインシュリンによって促進されることが知られている。これは、グルコース輸送蛋白質が、不断は形質膜には存在していないのに、インシュリン刺激によって形質膜に出現するためである。すなわち、この輸送蛋白質は不断は細胞内に浮遊する膜小胞の膜に結合して存在しているのであるが、インシュリン刺激を受けると、この膜小胞が細胞分泌(エキソサイトーシス)によって形質膜と融合するために、輸送蛋白質が形質膜にあらわれるのである。逆に、インシュリン刺激がないと、細胞吸収(エンドサイトーシス)によって、形質膜が陥没して膜小胞を細胞内に遊離させ、形質膜からグルコース輸送蛋白質が失われる。細胞分泌と細胞吸収は一括して膜動輸送(サイトーシス)と呼ばれ、ATP消費過程である。
グルコースの共輸送
小腸絨毛細胞(刷子縁細胞、絨毛上皮細胞)は上皮細胞であり、その表側は小腸内部(個体の外側)に裏側は張り巡らされた毛細血管側(個体の内部)に面している。腸壁を構成する上皮細胞シート自体が絨毛をつくって、吸収面を拡大しているのに対応して、一つ一つの絨毛細胞も、微絨毛突起を表側(腸内部側、個体の外側)にだして表面積を広げている。絨毛細胞の一つの働きは、小腸内部よりグルコースを吸収し、それを毛細血管中に放出することである。
このため、絨毛細胞の表側の原形質膜にはグルコースを能動的に吸収するナトリウム/グルコース共輸送蛋白質が、裏側の原形質膜には前述と同じような受動的なグルコース輸送蛋白質が埋め込まれている。表側で行われるグルコースの能動輸送は、グルコースの濃度勾配に対抗してグルコースを絨毛細胞に濃縮する働きがある。しかし、この輸送担体は同時にナトリウムイオンを受動的に吸収する機能を持つ。一つの輸送蛋白質が二種類以上の物質(イオン)を同方向に輸送するとき、これを共輸送(シンポート)という。グルコースについての電気化学ポテンシャル勾配(濃度勾配)とナトリウムイオンについての電気化学ポテンシャル勾配の和は、絨毛細胞内部に向いているため、この共輸送担体による輸送は受動輸送である、というべきであろう。言い換えると、濃度勾配に逆らうグルコース輸送の駆動力は、ナトリウムイオンの内向きの大きな電気化学ポテンシャル勾配に由来する。ナトリウムイオンとのこのような共輸送は他の糖や各種のアミノ酸についても知られている。